時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

姿の見えない道州制

 マニフェストを読みますと、自民党民主党も、基本的には、道州制の導入に賛成のようです。これでは、道州制の導入が決定されたも同じとなるのですが、単一型の集権制の方が効率がよい政策領域もありますので、果たしてこのまま政治主導で道州制に向かって邁進してよいのかどうか、疑問に思うのです。それでは、防衛、安全保障、外交、通商といった外政以外に、どのような政策分野が単一型の方が望ましいのでしょうか。

(1)経済分野
 EUに顕著に見られますように、グローバル化した時代に合っては、広い市場は経済活動の効率性と競争力を高めます。もちろん、金融政策に関する権限も日銀や監督庁のお仕事も中央が一元的に担う方が、金融秩序の安定化には適していると言えましょう。

(2)治安維持の分野
 地方ごとに異なる刑法を制定する権限を付与するとしますと、地方ごとに異なる法律相互に不整合が生じますし、犯罪率の高い地方が出現するかもしれません。現状の警察は、権限や組織が地方分権化されていますが、犯人の逃亡を考慮しますと、警察の場合には、より集権化した方が犯人の追跡や捕縛には有効である可能性もあるのです。

(3)社会保障政策
 公的年金制度、健康保険制度、失業保険制度といった社会保障制度は、規模が大きな方が安定しますし、また、国家単位であるほうが運営も効率的です。もし、地方ごとにこうした制度を設けるとしますと、加入年数や資格などについて、地方の制度間で調整を図らなくてはならなくなります。

(4)財政政策
 地方ごとに税率が著しく違うとなりますと、人口や企業の流出や集中が起きるかもしれません。また、地方交付税交付金といった中央から地方への財政移転政策を廃止しますと、財政力の弱い地方は衰退する可能性もあります(もちろん、地方は自立をめざして頑張るべきなのですが・・・)。交付金の使途に関する権限を地方に移譲することには賛成いたしますが、地方間の財政移転制度を全廃するには慎重であった方がよいかもしれません。

(5)一部のインフラ
 地方の声としては、費用対効果を考えずに住民の利益を優先し、道路などを建設したいところなのでしょうが、もし、インフラの建設に関する権限が地方に移譲されるとしますと、国土の有効利用や交通システムの効率化よりも、地元利益誘導が重視されるかもしれません。地方交付税交付金の縛りが強いのも、それが、国民負担であるからとも考えられます(地方への財政権限を移した結果、毎年赤字を生む無駄な道路ばかりが建設されることにも・・・)。

(6)教育
 様々な工夫ができるように、教育の自由度を高めることは望ましいことですが、自国の国語や歴史については、一定の基準を満たすようにしませんと、国民の間でコミュニケーションに支障をきたしたり、共通のアイデンティティーや認識を持てなくなることも予測されます(国家を歌うことができない国民も・・・)。教育の活性化は、地方ごとが良いのか、学校ごとが良いのか、これも議論を要するところです。

 以上に、幾つかの政策領域と検討課題を挙げてみましたが、もちろん、これらの他にも中央が行った方が良い領域もあることでしょう。道州制の導入に固執するよりも、国家を枠組みとした上で、各レベルへの権限配分の全体的な見直しを行うべきなのでは、と思うのです。せっかく先人が苦労して統合した国を、壊してしまうことになるかもしれないのですから。

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