時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

イラク戦争は集団的自衛権の必要性を示す事例

 憲法第9条につきましては、最近、集団的自衛権まで、違憲として否定する意見が散見されるようになりました。かなり過激な方向に進んでおりますが、その論拠として、しばしばイラク戦争が挙げられております。日本国が、アメリカの戦争に加担する、として…。

 第1に、イラク戦争では、集団的自衛権が発動されたわけではないことです。イラク戦争をめぐりましては、アメリカが、国際法における合法性を訴え、国連の枠組みにおける戦争であったとする立場に立つ一方で、中国やロシア等は(フランスも…)、国際法違反とする見解を表明しました。何れにしましても、有志連合による軍隊が結成され、フセイン政権下のイラクと戦うことになったのです。この戦争で注目されることは、有志連合が結成され、NATOといったアメリカとの同盟関係にある諸国は、自らの政策方針に従って参戦していることです。NATOの有力国であるフランスが反対に回っており、集団的自衛権の発動による義務的な参戦ではないのです。政府解釈の変更により集団的自衛権が行使可能となった後の日米同盟にあっても、同様の事態が発生した場合、あくまでも、参戦か否かの決定は、日本側にあることが推測されます。

 第2に、イラク戦争の発端となった湾岸戦争まで遡りますと、イラクに侵略されたクウェートの解放は、国連を枠組みとした広義の集団的自衛権が発動した結果です。国連レベルでの集団的自衛権までも否定するとなりますと、日本国は、侵略行為に見て見ぬふりをし、国際秩序の維持に何らの貢献もなさないことになります。

 第3に、クウェートの侵攻に際しては、国連の常任理事国は、揃って湾岸戦争の決議に対して支持票を投じています。しかしながら、現在、日本国が直面している危機は、中国の拡張主義によるものですので、仮に、クウェートの立場を、日本、台湾、フィリピン、ベトナム・・・といった諸国に置き換えるとしますと、湾岸戦争とは違い、国連決議が成立せず、国連による救済を受けることはできません。となりますと、日本国の防衛は、個別的自衛権で対応するとしても、他のアジア諸国を見殺しにすることになります。中国が、サラミ戦術を採用していることは知られておりますので、日本国の集団的自衛権の行使を必要不可欠の要件とする対中包囲網の形成は不可能となります。

 安保法案違憲論者が、”中国の手先”と称される理由は、日本国の集団的自衛権の行使の否定は、中国にとりましては、願ってもいない好都合な状況となるからです(侵略に好都合…)。最近、中国は、対日姿勢を軟化させているとも報じられておりますが、安保法案を違憲として葬り去り、集団的自衛権に関する政府の解釈変更を潰した後には、日本国の動きは封じたとばかりに、牙を剥く可能性も否定できないのです。その時、一体、誰が責任をとるのでしょうか。

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