時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

菊池元信者への逆転無罪判決こそ不自然

 昨日、都庁郵便物爆発事件で起訴されていた菊池元オウム真理教信者に対し、東京高等裁判所が、裁判員裁判による一審の無罪を覆し、無罪を言い渡すという奇妙な判決がありました。この無罪判決、司法の非常識が際立っております。

 報道によりますと、菊池元信者が運搬した薬品が危険物であることを認識していたのか、否かが、地裁と高裁の判決において有罪・無罪を分けたようです。つまり、無罪とした高裁は、菊池元信者には、薬品がテロに使用されるという認識が無かったと判断したことになります。しかしながら、この判断、非常識としか言いようがありません。何故ならば、第一に、都庁郵便物爆破事件は、平成7年5月16日に発生しており、同年3月20日地下鉄サリン事件の後の事です。また、サリン事件後も、オウム真理教は、4月30日、5月3日、5月5日の三日にわたって、新宿駅青酸ガス事件も起こしています。弁護側は、「地下鉄サリン事件とは無関係だと証明する実験用」と信じていたと述べていますが、事件当時、菊池元信者は、自らが属する教団がテロ活動を継続させていたことを知っていたわけですから、山梨県の教団施設に保管してあった薬品もまた危険物であると認識していなかったはずはありません。第二に、高裁は、菊池元信者の起訴の根拠となった井上証言を、「不自然なほど詳細で、むしろ信用できない」として証拠力を否定したことです。通常は、証言が詳細であることは、記憶通りに当時者しか知らない事実を述べていると判断されるものです。また、井上元信者は既に死刑判決を受けていますが、高裁でこの証言の証拠力が否定されるとなりますと、死刑の確定判決に影響を与える可能性さえあります。仮に、高裁において一部ではあれ井上証言を否定するとなりますと、東住吉事件の再審のように、井上死刑囚側から再審を請求される事態ともなりかねません。第三に、仮に、菊池元信者が、自らに罪はないと信じていたならば、逃亡生活を送ることなく、出頭したはずです。常識的に考えれば、指名手配が出された後の逃亡は、罪を自覚した行動と見なされます。
 
 オウム事件は、テロという集団犯罪の事例ですので、この点からも今回の判決には疑問がありますが、以上の点から明らかとなるのは、東京高裁の判断の”オウム的”ともいうべき異常性です。高裁の裁判官は、井上証言を不自然と断じましたが、真に不自然で信用できないのは、この逆転無罪判決なのではないでしょうか。

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