時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

日中「海空連絡メカニズム」は無意味?

 本日、産経新聞の一面に、東シナ海等での日中間の不測の事態を回避するために、日中間において「海空連絡メカニズム」の設置が合意される方向で最終調整に入ったとする記事が掲載されておりました。しかしながら、このメカニズム、結局は機能しないのではないかと思うのです。

 機能しないと考える第一の理由は、東シナ海等で想定される不測の事態とは、一瞬一秒を争う事態であり、悠長にホットラインで話を付ける余裕がないことです。ホットラインとは、キューバ危機のようにミサイル等の兵器の配備といった問題には有効ですが、双方の戦闘機の遭遇やレーダー照射といった現場で起きる出来事には対応しきれません。あり得るとすれば、宣戦布告なく、一方の兵士が相手方に攻撃を加えた場合、それを偶発的事件とみるのか、否かを、両者で話し合うことぐらいです(戦争の意思の確認…)。

 第二の理由は、ホットラインの電話口に出るのが誰であるのか、がはっきりしていないことです。中国側を見ますと、習主席が人民解放軍の全軍を掌握したと見る見解がある一方で、人民解放軍をコントロールし切れていないとする説もあります。言い換えますと、指揮権を有する軍のトップの責任者が電話口に出なければ、このメカニズムは全く働かないのです。

 第三に、現場海空域での通信手段の共通化が合意されるようですが、両軍において通信手段が共通化されれば、双方の通信内容は相互に筒抜けとなります。実際問題として、中国は、尖閣諸島への侵攻を計画しているわけですから、日本側に計画を察知される状況を歓迎するはずもありません。となりますと、表面上は共通化に合意しながら、おそらく、第二の通信手段を準備することでしょう。最近、中国は暗号解読が不可能な量子衛星の打ち上げを行っておりますので、日本側の通信内容だけが中国側に伝わり、日本側は、極めて不利な状況に陥ります(中国側は、偽情報等を流すかもしれない…)。

 そして第四に、衝突回避が本メカニズムの最大の目的であるならば、衝突を自発的に回避した日本側が、人民解放軍の侵攻を許してしまう可能性があります。衝突の回避とは、一方が道を譲ることをも意味するからです。中国側からホットラインを介して、”衝突の危険があるから、自衛隊はその場から離れるように!”とする呼びかけがあった場合、日本国政府は、どのように対応するのでしょうか。

 以上に問題点を述べてみましたが、同メカニズムが実際に機能するとも思えませんし、情報手段の共有に至っては、中国側に悪用されることで、日本国側が窮地に陥るリスクもあります。「海空連絡メカニズム」によって、逆にリスクが増すのであれば、迂闊な合意は禁物であると思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。