時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

神になろうとしたヴェニスのユダヤ人老人の物語

今日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が記事を書かせていただきます。モロッコMoloch, Malkutの負けず嫌いであり、常に最も高い地位を狙うという性格は、『ヴェニスのゲットーにて:反ユダヤ主義思想史への旅』(徳永恂、みすず書房、1997年)にて、紹介されているリルケの『Geschichten vom lieben Gott』(1899年)に収められる「ヴェニスユダヤ人街の一情景」という物語を想起させます。要約いたしますと、以下のようなお話となります。
 
ヴェニスユダヤ人街に金細工師であったユダヤ人の長老が住んでおり、この老人は、ゲットーの家々のなかで、いつも一番高い家の最上階の部屋に住まないと気が済まないという性格でした。或る年の夏、またゲットーで一番高い家が建て増されると、もう老人は長い階段を登ってゆくのが困難であったにもかかわらず、そこへ移ると言い張り、人々に手を取られながら半日がかりでそこまで登ってゆきます。秋が来て空気も澄み渡った或る朝、暁の光を通して、「これまで誰もユダヤ人街からは眼にしたことがないもの」がこの頂から望見され、老人は、最上階のルーフテラスの縁に一人立って、そちらの方向へ祈りとき跪拝を繰り返します。そして、この物語は、下から見上げる人々には、その姿は神々しいものに見えたのですが、その時、老人が見ていたものが、「それは海だったのだろうか、それとも神だったのだろうか」という問いかけで締めくくられています。
 
ルシファーは負けず嫌いであり、常に最も高い場所、即ち、人々を上から見下ろす最高位を狙うという性格は、この老人の性格にも通じています。

そして、暁の光とは『イザヤ書』によりますと「ルシファーLucifer」を意味します。また、『Conspiracy of the Six-Pointed Star: Eye-Opening Revelation andForbidden Knowledge About Israel, the Jews, Zionism, and the Rothschilds (『ダビデの星の陰謀:イスラエルユダヤ人・シオニズムロスチャイルドをめぐる啓発的暴露と禁断の知識)』(Texe Marrs, River Crest Publishing, 2011年)によりますと、ルシファーは、海から上がってくる怪獣、リヴァイアサンLeviathanとも同一視されています(頁26)。このことから、このユダヤ人の老人は、悪魔崇拝者であったと考えることができるのです。

 
リルケの『Geschichten vom lieben Gott』は、『神様の話』と邦訳されておりますが、正確に直訳いたしますと『現人神(生き神さま)の話』となります。すなわち、この物語は、人であるにも拘わらず、神の座に座ろうとしたユダヤ人の傲慢な老人の物語なのです。現在にも、最上階から人類の支配を目指すルシファー(モロッコ神)信者が存在しており、それは、ユダヤ人、おそらくは「黒いユダヤ人」の中に存在しているかもしれないのです。

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(続く)