時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

ユダヤ人と遊牧民族問題

 本日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が、記事を書かせていただきます。そもそも、「キリスト人」という特定の民族が存在していないのと同様に、本来、「ユダヤ人」という特定の民族は存在しておりません。キリスト教を信仰する人々の集団を指す場合「キリスト教徒」が適切であって、そのキリスト教徒が多くの民族によって構成されているように、「ユダヤ人」ではなく、「ユダヤ教徒」という表現が適切であると言うことができるのです。
 
したがいまして、本ブログにおきまして再三にわたり指摘しておりますように、現代ユダヤ人、すなわち、「ユダヤ教徒」は、大きく分けて1)アブラハムを始祖とする先祖伝来のユダヤ人である「ヘブライ12支部族(13支部族)」と、2)紀元1世紀のアラブ系のイドメア人をはじめとして、後にユダヤ教に改宗した様々な民族によって構成されているのです。
 
現代ユダヤ人のみが、なぜか、一つの民族であるかのように扱われている理由として、ユダヤ教徒遊牧民族との繋がりについて考えてみる必要があるかもしれません。昨日、本ブログで述べましたように、遊牧民族には、自らの民族名に対する愛着や誇りが欠如しているため、民族名が変わっても意に介さない傾向にあります。このため、ユダヤ教に改宗いたしますと、本来の民族名を捨てて、「ユダヤ人」と自称するようになったのではないか、と推測することができるのです。
 
シェークスピアの『ベニスの商人』でもよく知られておりますように、特に商人には、ユダヤ教徒に改宗した人々も多かったのではないかと推測されます。「水の都」とされたヴェニスは、マルコ・ポーロの出身地であることに示されますように、当時のヨーロッパにあって、最もモンゴルと親密な関係にあった商業都市国家です。『ベニスの商人』において、ヴェニスに在住するユダヤ人商人、シャイロックは、その呵責なき残忍性において、典型的悪徳商人として設定されておりますが、そのモデルは、遊牧民思考の影響を受けた商人か、あるいは、ユダヤ教に改宗した遊牧民族であったのかもしれません。

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(続く)