時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

ウクライナ紛争に見る歴政学historo-politics的視点の重要性

 国際紛争の原因を論じるにあたりましては、地理的条件と紛争当事国のパワーとの関係を扱う地政学geo-politicsという視点に加えて、歴政学historo-politicsという視点も重要なのではないでしょうか。

 

 歴政学(ヒストロ・ポリティークhistoro-politics)という単語は、以下の理由によってつくった私の造語です。

 

 現在の全世界の国々には歴史があり、また、その国々を構成する民族にもそれぞれの歴史があります。第二次世界大戦後、世界を構成する国々のそれぞれの施政権の及ぶ範囲は、基本的には民族自決主義にもとづいておりますが、国家と民族双方の様々な歴史的要因によって、必ずしも言葉通りの民族自決とはなっておりません。むしろ、純粋なる民族自決主義国家は、存在していないといっても過言ではないかもしれません。民族混住問題、民族独立問題、領土問題などは、多くの国々を悩まし続けている問題であるのです。すなわち、民族自決権があるがゆえに、世界の国々は、国際・国内紛争ぼっ発の要因を抱えているのです。そこで、こうした複雑な歴史的条件がもたらす政治問題を扱う学問分野を、「歴政学(ヒストロ・ポリティークhistoro-politics)」と呼んだらよいのではないか、と考えたのです。紛争ぼっ発要因をめぐって地理的条件に注目した政治学地政学であるのならば、歴史的条件に注目した政治学を歴政学であるのです。

 

 歴政学的視点が重要であることは、ウクライナ東部やクリミア半島が、まさに歴史的な複雑性を持った地域であることによって明らかであると言えます。すなわち、ウクライナ紛争の解決が難しい原因は、ウクライナ側にもロシア側にも、歴史に根差したいわゆる‘言い分’があるからに他ありません。ウクライナ東部は、もとよりロシア系住民が多い地域であり、クリミア半島はロシアに帰属していた時期もあるからです。すなわち、現時点の政治状況や国境線のみを見たのでは、ウクライナ紛争の真の原因は見えず、歴政学的視点に立たなければ、それを見ることはできないのです(地政学的ロシアの覇権主義のみでは、ウクライナ紛争の原因は説明されえない)。

 

 このように考えますと、ウクライナ紛争解決のためには、歴政学にもとづいて過去に遡った現地調査を行うことが必要であることは言うまでもありません。たとえ解決が難しく、長い道のりであろうとも、歴政学から紛争原因を調査分析すれば、少なからず、「なぜ、ウクライナ側が怒っているのか」、「なぜ、ロシア側が怒っているのか」という点について、紛争当事両国の国民のみならず、世界の人々がその原因を理解できるようになるはずです(こうした分析によって両国民ともに‘頭を冷やす’可能性も)。そして、楽観主義かもしれませんが、原因がはっきりしてくれば、紛争解決と紛争地域におけるよりよい施政制度の構築に向かって、より理性的な判断ができるようになるのではないでしょうか。