時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

芥川龍之介の『黒衣聖母』-黒マリア信仰の本質

 今日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が記事を書かせていただきます。イルミナティーを構成する主要3勢力の1つであるイエズス会は、秘かに黒マリアを信仰しいたようです。イエズス会創始者であるイグナティウス・ロヨラは、セファルディ系ユダヤSephardic Jewですので、イルミナティーのマルクート(モロコ)教がどのような思想であるのかを知るためには、黒マリア信仰の思想についても知っておく必要があります。


ところで、芥川龍之介の作品には、黒マリア信仰を題材にした『黒衣聖母』という短編小説があります。(昨年の10月5日付本ブログにて扱いましたように、芥川龍之介は、イルミナティー関連の情報に接することができる立場にあったようです)。同小説では、マリア観音は、「災い転じて福となる」の逆に「福が転じて禍となる」という’霊験’があり、しかも、最も底意地の悪い残忍な方法でそれを成す存在として描かれています。

同小説は、黒マリア像を所持する友人から、自家に伝わるこの像にまつわる不気味な’実話’を聞くところから始まります。その’実話と’は、黒マリアが秘かに信仰されていた新潟県のある素封家の家で、両親を早くに失った幼い姉弟、栄子と茂作のうち、弟の茂作が麻疹に罹って生死の境を彷徨う事態に陥った際に起きた出来事としています。この時、その祖母は、土蔵の奥に安置されていた黒マリアに、“せめて、自分の存命中の間は、茂作の命を長らえさせて欲しい”と願をかけます。すると、茂作は俄かに回復する兆しが見えたのです。ところが、黒マリアのご利益と喜んだのもつかのまで、その祖母はその日に急死し、茂作も亡くなってしまいます。祖母は、跡取りの孫の病死で家系が途絶えることを案じ、自分の寿命と引き換えに、茂作の快癒を黒マリアに祈願したのですが、黒マリアは、祖母に死を与えると同時に、茂作の命をも奪ってしますのです。祈願は、最悪の不幸な結果となって成就されるのです。
 
これまで述べてきたように、黒マリアは、人類の野蛮性や動物性の象徴でもありますが、芥川は、この小説において、意地の悪さを含む‘悪’の化身として描き出しています。小説の祖母は、このような黒マリアの底意地の悪さを知らずに信仰していたようですが、このような黒マリアの真の’霊験’を知りながら信仰する、あるいは、自らを黒マリアの具現者となしている人々がいるとすれば、それは、邪悪な人々であるということになりましょう(小説の主人公は黒マリアの底意地の悪さを看破している)。芥川の『黒衣聖母』は、イルミナティーの性格を知る上でも、貴重な作品ではないかと思うのです。

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(続く)