時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

人類の平和への道は国境確定から始まった?

 人類の歴史を振り返りますと、戦争の最大の原因が、土地争いにあったことは容易に見て取ることができます。人間の集団が未だ一定の地域に定住せず、どこへでも行くことができた時代には、戦争は、必ずしも倫理的に非難される行為ではありませんでした。むしろ、武力を用いて領土を拡大することに成功した人物は、その国の英雄でさえあったのです。

 それでは、どの時点から、戦争は今日のように非難されるべき行為へと転じていったのでしょうか?それは、国家と国家との関係に、”法”というものが入介在してくるようになってからのことです。ある民族の定住地に対する既得権が、国家の領有権という”所有権”に変わる時(もちろん、戦争による講和条約の結果でもありますが…)、戦争という行為は法的な犯罪=侵略という意味合いを帯びることになるのです。こうして、一旦、国家間に条約が結ばれ、国境線が画定されますと、それを破った方が”悪い”という状況が生まれることになりました。

 このことは、平和の基礎、少なくともその重要な部分を築くためには、全ての国境線が画定される必要があることを示しています。しかしながら、今日でも、国際社会はその状況に到達していません。平和の基礎は、法による秩序にありながら、それが未完成であるという現実は、国際社会に”政治”という極めて難しい領域を残しているのです。