時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

良心的徴兵拒否とは何か?

 NHKBSプレミアムで毎日曜夜9時から放映している『刑事フォイル』は、表にし難い微妙な問題をドラマ仕立てで描き込んだ秀作です。このドラマの面白さは、刑事ドラマとしての筋立て以上に、それとなく配されているディテールによって歴史の実像が推理できるところにもあります。

 先週前篇が放映された「兵役拒否」でも、良心的徴兵拒否の問題に迫っています。表面上のテーマは、良心的兵役拒否の審理をめぐる”汚職”事件なのですが、その裏には、この制度の別な一面が見えてきます。大英帝国を築いたイギリスは、既に17世紀頃から移民問題を抱えると共に、ユダヤ人勢力が浸透した国でもあります。大英帝国全盛期の政治家である保守党のベンジャミン・ディズレーリは、イギリス史上最初のユダヤ人首相でもありました。当ドラマの脚本家であるアンソニーホロヴィッツもまた、ユダヤ人としてロンドンに生を受けています。良心的兵役拒否とは、表向きには、平和主義など特定の思想を信奉する人々に対して、特別に兵役の拒否を認める制度ですが、このドラマを視ておりますと、もしかしますと、この制度、国籍はイギリスであっても、ユダヤ人を含め、外国に出自を遡る人々を主たる対象とした制度ではなかったか、とする疑いが湧いてくるのです(あくまでも、推測ですが…)。外国で作製されたドラマには、日本人の従来の認識を覆すような事実が描かれていることが少なくありません。

 先日も、本ブログでは、このドラマに関連して、工場勤務を主とした朝鮮人徴用は良心的徴兵拒否と同程度の軽度の義務ではなかったか、とする記事を掲載しましたが、軍隊内部や国民間の結束が問われる戦時下にあって、一般の国民と同程度の国家に対する忠誠心や祖国防衛に対する使命感を期待できず、また、これらが疑わしい国民に対して、政府が異なる扱いを設けたことは理解に難くありません。ドラマそのものに隠された事実を追うという意味において、『刑事フォイル』は、二重仕立ての推理ドラマに思えるのです。

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