時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

原始時代に適した独裁体制

 観念として”独裁はいけない!”と分かってはいても、何故”だめ”であるのかを論理的に説明することは、なかなか難しいものです。独裁が否定される理由は多々あるのですが、ここでは、この体制が、複雑化した現代社会には適応不可能である点から説明してみることにしましょう。

 現代国家においては、国民は、自己の私的な空間のみならず、政治的ならびに経済的な自由と権利を保障されています。このため、当然に国家の内部には、多様な意見や利益が存在することになります。しかも、市場経済のメカニズムにあっては、画一的な労働ではなく多様性や専門性こそが成長の原動力となるのです。

 この結果として、現代における政府の役割は、国民に仕事を与えたり、命令したりすることではなく、国民の自由と多様性を尊重し、それを生かす方向にシフトすることになります。複雑な社会を支え、生産者、消費者そうして生活者である国民の多様な意見や利益を政治に反映させるために、統治機構は分権化し、諸機関も専門化してくるのです。

 現代国家のこの特徴を考慮しますと、すべての権力を一個人に集中させてしまう独裁体制は、複雑な社会には不向きなようです。つまり、独裁体制は、画一的な原始的な社会でしか生存できないのです。

 *現代国家の統治論のエッセンスについては、HP『倉西先生のご学問所』http://www3.plala.or.jp./kuranishigakumonをご覧ください。