時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

独立戦争の非暴力主義は防衛戦争には通用しない

 インド独立に際して、独立運動の指導者であったガンジー氏が貫いた非暴力・不服従主義は、平和主義の理想として、今日でも高く評価されています。しかしながら、この非暴力主義は、植民地が宗主国から独立するに当たって、戦争ではなく両者の交渉によって解決する手法を世に示したことにおいて意義があるのであり、これをそのまま、国家の防衛政策に適用することには無理あると思うのです。

 植民地が独立するには、戦争だけが唯一の手段ではなく、交渉による独立も当然にあり得る道です。何故ならば、宗主国が、コスト面を考慮して植民地保有を断念し、武力行使に訴えてでも現状を維持する意思をなくした場合には、平和裏に独立を承認することも、合理的な選択であるからです。しかしながら、他国の領土獲得や支配を目的として攻撃を加える場合には、独立戦争とは全く事情が異なります。後者の場合には、非暴力主義は、不服従どころか武力への服従を意味しますし、無抵抗のうちに降伏するという結果を招くことになります。

 非暴力主義を唱える前に、果たして、この予測されうる顛末が自国と自国民にとりまして望ましいものであるのか、よくよく考えてみる必要がありましょう。自国が属国になることを歓迎する人々が存在するとは、到底、思えないのですが。