時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

皇室問題-世襲を考える

 日本国は、古来、祭政二元体制の時期が長く、朝廷と幕府は、聖と俗との間で役割を分かつことで、調和的な国制を維持してきました。しかしながら、この体制は、明治の開国と共に激変し、天皇は、世俗の領域においても中心に位置づけられ、いわば、祭政一元体制へと転換します。

 その一方で、民主主義が定着するに至ると、明治憲法下にあってさえ、統治制度は様変わりしてゆきます(大正デモクラシー期の議院内閣制の成立…)。政治権力の世襲は否定され、今日では、国民から民主的な選挙で選ばれた政治家が統治を担うに至ります。とは言うものの、戦後の日本国憲法にあっても、天皇は国事行為を行い、天皇の公務とは、法的には憲法で定められた国事行為を意味しています。手続き上の形式や儀礼的な役割であれ、世俗の世界においても一定の役割を果たしているのです。

 こうした統治上の役割は、天皇位が世襲であることから、幾つかの問題を含みます。天皇が政治的な発言や行動をとるとしますと、民主主義に抵触する恐れがあるからです。とは申しますものの、天皇位は、天皇を政治的に利用したい組織や勢力の目からすれば、是が非でも手に入れたい地位に映ります。天皇の国民に対する影響力を考慮すれば、天皇の権威を背後から利用できれば、民主主義を迂回して、日本国や国民を自らの思うままにコントロールできると考えるからです。つまり、皇室とは、常に、こうした組織や勢力のターゲットなのです。そして、世襲であればこそ、皇位継承者との婚姻は、皇室を手にする最大のチャンスなのです。古今東西を問わず、姻族に乗っ取られた王家の数は枚挙に遑がありません。そして、一旦、特定の組織や勢力が皇室において内部化されますと、もはや、それを取り除くことは、殆ど不可能となるのです(江戸時代までは門跡などに…)。

 世襲の重大な欠陥は、国民の側には選択権が所在せず、かつ、不可逆なところにあります。戦後、民間から妃が迎えられたとはいえ、その選択権はくまでも皇室側にあり、国民が選んだわけではありません。現実には、政治利用のチャンスを民間に広げただけであったのかもしれないのです。今後、皇室について考えてゆくに際しては、世襲制度の問題にも取り組むべきではないかと思うのです。

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