時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

男系継承論さえリスクがある

 二階議員の女性天皇容認論は、早々に慎重論によって抑えられた感がありますが、この問題、皇室の血統に関する本質的議論にまで踏み込まざるを得なくなるように思われます。

 皇統の万世一系については、室町期や明治維新時おける疑惑もあり、史実としての確認はDNA鑑定を待つしかありませんが、少なくとも公式には、神武天皇以来、男系を以って天皇位を継承して生きたことは確かです。歴史において女性天皇の即位の前例はあるものの、即位後の婚姻を許した事例は存在していません。この点、女性天皇容認に対する懸念は当然であり、他の王室とは違い、男系による万世一系を継承の原則としている以上、その変更は、正当性の崩壊を意味しかねないのです。

 しかしながら、男系継承であれば、全て問題がないわけでもありません。今日、指摘され得る隠れた問題点とは、男系継承を原則としているからこそ、出自が問われずに、自由恋愛による戦後の民間妃の入内も許された点です。国民の多くも、男系で継いで行く限り、母系がどうであれ、皇統は維持されると考えたのでしょうが、現実には、私的な家庭内における伝統や文化の継承面からしますと、母系の影響は侮れません。今日、皇室と雖も自ら子育てを行うのですから、むしろ、皇位継承者が母系側の習慣や文化に染まる可能性の方が高いのです。血統としては男系を介して皇統を継承していようとも(Y遺伝子論)、母系を通して皇室の伝統や文化が変質したのでは、その存在意義も危うくなります。特に、妃の出自が異民族ともなりますと、一般の日本国民との間に文化や道徳意識に関する摩擦が生じまかねないのです。この現象は、今日、既に顕在化しております(皇室らしさや朝廷文化の消滅…)。

 皇室とは、国民の崇敬の念によって支えられておりますので、母系を通してであれ、その変質は、民心の離反を招きます。男系継承でさえリスクに満ちているのですから、女性天皇、況してや、女系継承ともなれば、国民の皇室に対する崇敬の念は消え去ることとなるのではないでしょうか。

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