時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

民主党年金改革案は年金制度廃止案?

 年金制度には、およそ3つの起源があると言われています。その一つは、(1)兵士や船員といった危険性の高い職業に就いている人々に対して、政府や会社が、万が一に備えた生活保障を行うというものです。19世紀に至りますと、(2)ビスマルクが、最初に一般の賃金労働者を対象とした政府運営による老齢年金制度をはじめました。また、(3)イギリスでは、共済型の年金が発達しました。これは、被雇用者が集まって、相互扶助の観点から長期にわたり年金を積み立てゆくというものです。何れの場合も、公的であれ、私的であれ、これらの年金制度は、受益者と負担者との間にギブ・アンド・テイクの関係の上に成立していたのです。
 一方、民主党が提案している全額税方式の年金制度案は、これらの年金制度とは、本質的には異質なもののように思われるのです。高額所得者には受給資格がなくなる一方で、全く税を納めていない人でも支給を受けることができます。受益と負担の関係がイコールではなくなりますので、年金制度というよりも、社会共産主義型の年金制度、あるいは、所得移転政策と考えた方が適切であるかもしれません。日本国の年金制度は、いつのまにやら生活保護制度に衣替えしてしまうことになるのです。