時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

ヨーロッパ諸国の死刑制度の原風景

 死刑制度については、ヨーロッパ諸国が人道を掲げて廃止を主張していることから、我が国でも、最近では、廃止論が多く聞かれるようになりました。死刑制度とは、人の生命がかかわる問題ですので軽佻には議論できないのですが、議論を進めるにあたって、まずは、何故、ヨーロッパ諸国では死刑廃止にこれほどまでに熱心であるのか、考えてみる必要はあると思います。

 ヨーロッパ諸国の歴史を振り返ってみますと、権力分立、特に司法の独立を生み出した地域なだけあって、政治による司法権の濫用が、頻繁に起きてきた事実に行き当たることができます。つまり、政治的闘争や権力争いの中で、死刑は、ライバルを合法的に葬り去る手段として利用されてきたのです。もちろん、ヨーロッパのみならず、こうした事例は他の地域にも見られます。しかしながら、個人の権利が強く意識されることによって近代という時代を切り開いたヨーロッパ諸国においては、死刑の濫用は、極めて非人道的な制度として意識されるようになったことは理解に難くありません。

 こうした歴史的背景もあって、ヨーロッパ諸国では、個人的な権利の尊重の方が、治安の維持よりも優先されるようになりました。しかしながら、治安の維持という側面に立ち戻りますと、死刑に値する犯罪者は、他者の生命を奪うという最も非人道的な行為を行っているのですから、政治犯ではなく、純粋な”犯罪者”に対する死刑は、必ずしも、非人道的であるとは言えないように思うのです。