時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

天皇と民主主義が両立した理由

 今月22日、アメリカ西部のミズーリ州カンザスシティにおいてブッシュ大統領が行った演説は、戦前の日本国とアルカイダを同一視するものとして、批判的に報道されています。しかしながら、この議論を機に、何故、戦後の日本国において、天皇の存在と民主主義とが両立したのかを冷静に考察してみることは、大いに意義あることではないかと思うのです。

 大日本帝国憲法は、明治期にあって、過去の分権制を克服し、欧米列強に並ぶ近代国家となるために、中央集権体制をとる必要性から制定されました。このため、天皇の地位は西欧の君主に模され、天皇は、国家の全ての統治権の総攬者とされたのです。もちろん、実際には、天皇自身が独裁的に権力を行使したわけではなく、法と現実との間にかい離が生じていました。しかしながら、少なくとも大日本帝国憲法を文面通りに読みますと、絶対君主に近い為政者であったことになります。

 戦後に至って、日本国が安定した民主主義体制を築けた理由の一つは、天皇が、憲法上、国家および国民統合の象徴とされ、政治から切り離されたことにあります。この分離により、戦後は、軍部をはじめとした勢力に天皇が政治利用される経路が、法的に遮断されることになったのです。

 この天皇と政治との分離(二元体制)こそ、二千年以上にわたって、天皇が存続し、かつ、民主主義と両立する要訣であったことは、現在なお、よく噛み締めねばならない事柄のように思えるのです。