時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

許認可制のリスク管理を

 薬害肝炎訴訟については、議員立法を通して、肝炎患者の一律救済を実現する方向で決着しそうです。この救済方法は、違法性に基づく国家賠償というよりも(法律に厳密に従えば、政府に責任のある期間は限定される・・・)、政治的な患者救済策として理解することができましょう。

 ところで、この問題は、血液製剤のみならず、政府による許認可制度から発生するリスクの管理問題に波及すると思うのです。現在、政府は、さまざまな製品に対して許認可制度を設けていますが、しばしば新聞やテレビで報道されますように、許認可されたものであっても、それを購入した使用者や所有者に甚大な被害をもたらす事件が少なくありません。例えば、医薬品や治療法では、短期的には問題がなくとも長期的には深刻な副作用が発生する場合もありますし、また、アスベストのように、安全と考えられていた物質が、後に健康被害が認識される場合もあります。今後、薬害肝炎のような事件が発生するとしますと、政府は、許認可者としての責任と財政的な負担を負うことになります。このため、責任追及を恐れた政府は、完全に安全なものしが許認可をせず、製品開発や実用化に遅れが生じてしまうかもしれないのです(難病の患者さんは、むしろ、100%の安全性が確認できなくても、効果が期待されている医薬品の許認可を急いでもらいたいことでしょう)。

 このように考えますと、許認可制における被害発生に備えて、国と企業とは、倍賞補償制度とルール作りを急ぐ必要があるように思うのです。倍賞制度については、民間において同業者による保険制度を設立することも一案と言えそうです。一方、政府も、国家賠償に備えて、予め、国家賠償基金を設けておくことも検討にあたいするのではないでしょうか。また、何人かに一人であっても、効果が認められる医薬品については、患者本人の承諾があれば、投与を許可するという方法もあります。少なくとも、許認可制から発生するリスクは、誰がどれだけ負担するかの合意を形成しておきませんと、経済や社会が停滞してしまうかもしれないのです。