時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

簡単そうで怖ろしい違憲論者の”身近な説明”

 今国会で審議されている安保法案は、説明が難解で複雑なところが、国民からの理解を得られない理由の一つとして指摘されております。その一方で、簡単そうで恐ろしいのが、芸能界の”恋愛禁止”を引き合いに出した”身近な説明”です。
 
 集団的自衛権違憲とする論者によりますと、国際法で認められている権利である個別的自衛権集団的自衛権に制約を課すことは、AKBのメンバーに”恋愛禁止”を課しているのと同じであり、国際法に違反してはいない、というものです。この説明に思わず頷いてしまう方もおられるのでしょうが、よく考えてみますと、到底、両者を同レベルでは論じられないことに気が付くはずです。第1に、”恋愛禁止”は、個人の行動の自由に対する制約であり、”集団的自衛権禁止”は、自己保存のための権利(個人レベルでは生命、身体、財産といった基本権)に対する制限です。そもそも、制約の対象の性質が違っているのです。第2に、”恋愛禁止”は、プロダクションとメンバーとの間の契約における雇用条件の問題ですが、一方の”集団的自衛権禁止”は、特定の契約相手がいるわけではなく、日本国による自主的な国際法上の権利放棄となります。前者では、制約によって双方がビジネス上の利益を期待できる一方で、後者の場合には、国による権利放棄のマイナス影響は全国民に及びます。さらに第3として指摘できることは、国内法に譬えれば、前者を民事の分野とすれば、後者は刑事分野の問題であることです。刑法では、正当防衛権を明記しておりますが、正当防衛権を否定すれば、これもまた、違法となります。

 分かりやすい説明に誘導されますと、何時の間にか、日本国は、集団的自衛権という正当防衛の手段を失うことにもなりかねません。”身近な説明”には、用心したに越したことはないと思うのです。

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